・減価償却の任意償却
減価償却とは、使用や時の経過により固定資産の物理的、経済的な減少を見積もって、固定資産の使用期間に費用として配分するとともに、その固定資産の帳簿価額を減額していく手続きのことです。
この減価償却。実は会計上と法人税法上との考え方を混同して捉えている方が見受けられます。その最たるものが任意償却という考えです。
会計上、企業会計原則において、固定資産はその資産の耐用期間または有効期間にわたって、定額法や定率法など一定の減価償却の方法によって、その取得価額を各事業年度に配分しなければならないとしています。
つまり、会計上は任意償却を認めていません。ただし、企業会計原則は、企業が会計処理を行ううえで従わなければならないとされてはいますが、法律ではないため、従わなくても罰則規定は特にないのが現状です。
一方、法人税法上、損金つまり費用として認める減価償却費として、法定耐用年数に基づいた償却限度額と法人が減価償却費として会計処理した金額のいずれか少ない金額という取り決めをしています。
言い換えれば、償却限度額に満たない減価償却費でも損金となるということです。
この現象から法人税法上は、任意償却が認められるという表現が用いられます。
実務においては、会計上の考え方=法人税法の考え方が使われていることがほとんどですので、償却限度額に満たない減価償却費の計上(ゼロを含む)、つまり任意償却を行っていることがしばしば見受けられます。
前述したとおり、法人税法上は任意償却でも問題はありません。また、任意償却は損金(費用)計上が少なくなり、結果、所得(利益)の増加につながるため、法人税が多くなります。この観点から税務署から指摘を受けることもまずありません。
企業も利益の増加につながり、見栄えの点からもいいと思っていることがほとんどです。本来は企業会計原則の考え方に反していますが、その感覚はないのが実際のところでしょう。
しかし、たとえば上場会社などは、もし任意償却をしていれば企業監査において公認会計士から適正な決算書として認められません。つまり、上場を維持できないのです。これは、基本理念である企業会計原則の考え方に基づいているからです。
この考え方は、債権者たる金融機関も同じです。任意償却では利益調整が可能となり、正しい決算書の作成ができていないともいえます。従って、任意償却を行っている場合には、まずその理由を確認し、その企業の財政状態(決算書)に手直しが加えられてしまいます。これは、企業自体の信用力の低下にも繋がり、融資等に影響を及ぼすこともあります。なお、任意償却の有無は100%金融機関に見抜かれます。
減価償却は、費用としての期間配分の考え方はもちろんのこと、企業が投下した資本を何年で回収するかという発想ともいえます。つまり、今後の投資に備えることにも繋がるのです。
適正な期間配分で費用処理を行い、正しい決算書を作成することこそが何より企業のためであるといえますので、特段の事情(税務上の欠損金が切れるため使ってしまいたいなど)がない限り、任意償却は慎むべきだと思います。