・中小企業の株式の時価
中小企業の株式を、他の人に移動させる方法としては、お金などの対価を伴う売買と、対価を伴わない贈与・相続に大別されます。
このとき問題となるのが株式の価額、つまり時価です。
上場会社の場合、自由に取引がされており、株式の価額は常に変動しています。
しかし、需要と供給のバランスから売買が成立しているわけですから、その価額は、時価そのものです。
では、普段売買が行われていない中小企業の株式の時価はどのように計算されるのでしょうか。
法人が売買した場合は法人税、個人が売買した場合は所得税、贈与や相続の場合は相続税の規定が適用されることになりますが、株式の時価の算定の仕方について、それぞれ次のように規定されています。
法人税・・・基本通達9-1-13,9-1-14
所得税・・・基本通達23〜35共-9、59-6
相続税・・・財産評価基本通達178から189-7
このとおり、株式の時価の算定の仕方については、本法の条文上では何ら規定されておらず、実務指針である通達で規定されているのです。
最初に、法人税では、まず基本通達9-1-13に規定があり、タイトルは“上場有価証券等以外の株式の価額”となっています。
これは、資産の評価替えをするときの時価を規定しています。つまり保有している株式の時価の規定なのですが、売買の際にもこの規定を援用します。
4つのパターンが規定されていますが、通常は最後の“純資産価額を参酌した価額”を使うことになります。
そして、この“純資産価額を参酌した価額”について、基本通達9-1-14で一定の条件を付けたうえで相続税の時価(財産評価基本通達178から189-7)を使ってよいと規定しているのです。
ちなみに一定の条件とは次の3つです。
①常に小会社に該当するものとすること
②保有している土地と上場有価証券は、取引上の時価とすること
③法人税等相当額は控除しないこと
ちょっとわかりにくいですが、要は、贈与・相続のときの時価を基本にしつつ、一定部分を調整したものを時価とするということです。
次に、所得税では、まず基本通達23〜35共-9に規定があり、タイトルは“株式等を取得する権利の価額”となっています。
これは、ストックオプションなどを権利行使における時価の規定なのですが、売買の際にもこの規定を援用します。
(一)から(四)のうちの(四)について法人税と同様にさらに4つのパターンが規定されていますが、こちらも通常は最後の“純資産価額を参酌した価額”を使うことになります。
そして、この“純資産価額を参酌した価額”について、基本通達59-6で一定の条件を付けたうえで法人税と同様、相続税の時価(財産評価基本通達178から189-7)を使ってよいと規定しているのです。
ただし、一定の条件について、次の4つを規定しています。
①同族会社に該当するかは売買直前の議決権の数で判定すること
②常に小会社に該当するものとすること
③保有している土地と上場有価証券は、取引上の時価とすること
④法人税等相当額は控除しないこと
①が法人税にはない条件になります。
しかし、この規定。よく読むと実は、みなし譲渡の規定について限定していることがわかります。つまり、個人から法人へ売買するときには、この条件をつけて相続税の時価(財産評価基本通達178から189-7)を使ってよいとしているのです。
個人から個人への売買には適用されません。
というか、規定が存在しないのです。
最後に、相続税では、基本通達の総則に“不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立する価額”との定めがあると同時に、具体的には、財産評価基本通達178から189-7で算定方法を規定しています。
議決権の割合や会社の規模などにより、類似業種比準方式、純資産方式、配当還元方式で算定がされます。
細かい計算の仕方はここでは省略しますが、時価の規定としては、所得税や法人税のように複雑にはなっていません。
このように、中小企業の株式の時価といっても、それぞれ規定が異なっています。
相続税の時価のままで売買がされている場合には、法人税では受贈益や寄付金課税といった問題、所得税ではみなし譲渡やみなし配当(自己株式の買取など)といった問題が生じてくる可能性がありますので、注意が必要です。