・貸倒損失
貸倒損失とは、売掛金や貸付金などの金銭債権が回収できずに、損失になることをいいます。
しかし、法人税法においては貸倒損失については全く規定がされていません。
法人税法第22条で損金となることは明記されていますが、貸倒という事実が発生したか否かの判断材料などは、一切明記されていないのです。
では、実務を行う上で何を判断材料としているかというと、法人税基本通達をもとに判断を行うことになります。
具体的には、法人税基本通達9-6-1、9-6-2、9-6-3において、金銭債権の貸倒を3つに区分して規定しています。
一つ目は、法律上の貸倒と呼ばれるものです。
これは、会社更生法や民事再生法などの法的手続きにより切り捨てられた債権や金融機関当事者間での協議により切り捨てられることになった債権などが該当し、当然に損金に算入されます。
この法律上の貸倒には、書面による債務免除も該当します。
しかし、債務者の債務超過の状態が相当期間継続しているという要件がありますので、ただ単に書面を送ったからといって、貸倒処理が出来るわけでもありません。
なお、この債務超過の状態が相当期間継続しているという“相当期間”については、何ら明記されていません。
実務書には3年〜5年程度と書かれているものが多いですが、これについても何の根拠もありません。実態をよく精査し、判断すべきでしょう。
二つ目は、事実上の貸倒と呼ばれるものです。
これは、法律上の債権は消滅していなくても、債務者の資産状況や支払能力などからみてその回収不能が明らかでない場合、実質的な貸倒の状態として、損金算入が認められます。
例のごとく、債務者の資産状況や支払能力などからみてその回収不能が明らかでない場合について明確な規定はありません。
また、判例では債務者のみならず債権者の事情も考慮すべきとの判断がされているものもあります。
この規定には、債権の全額が回収不能という要件があります。
また、担保物がある場合にはそれを処分した後でなければならないとされています。
この担保には人的担保、つまり保証債務も含まれますので、これらすべての担保もあてにならず、全額回収不能の場合に初めて認められるという規定です。
なお、担保物の処分に時間がかかる場合や、債権の一部が回収不能の場合などは、別の個別評価金銭債権の貸倒引当金の規定が適用できます。
最後の三つ目は、形式上の貸倒と呼ばれるものです。
これは取引を停止してから1年以上経過している場合や債権を回収するのに債権金額以上の費用(旅費など)がかかってしまう場合など、形式的に貸倒とみて差し支えない場合に損金算入を認めています。
ただし、この規定は売掛金などの売掛債権に限定されており、貸付金などには適用がありません。また、売掛債権についても不動産取引のように単発な取引によるものは除外されます。
経理処理として回収の可能性もあるため、備忘価額を残す必要もあります。通常は1円だけ残すことが多いようです。
このように、貸倒の事実認定については、非常に複雑であり、判断に迷う場面も多々あるにもかかわらず、冒頭で述べたとおり、貸倒の規定は、法律ではなく法人税基本通達に規定されています。
本来、税法上の通達とは、国税庁の長官から各職員への実務上の法令解釈の命令であり、法律でも何でもありません。
しかしながら、強い拘束力があるため、実務上はこの通達を頼りに判断を行わざるを得ない状況にあり、我々専門家も実に歯がゆい限りです。