・会社分割
“会社分割”という言葉は、よく新聞でも見かけます。
平成13年にこの会社分割という制度が創設されてから10年近くが経ちますが、
現在企業の組織再編の一つとして非常によく使われています。
会社分割とは、企業の中での一部門を切り離して、別の会社に引き継ぐことをいいます。
もう少し簡単に言うと、1つの会社を2つ以上の会社に分けることをいいます。
会社ではいろいろな事業を行っています。この複数の事業のなかには、ずっと利益を上げている部門もあれば、儲からず赤字を出し続けている部門もあるでしょう。
このような会社であっても何も手を打たないままですと、いずれは会社全体に影響を及ぼし、会社そのものが倒産してしまうことさえあるのです。
このような場合に、それぞれの部門を独立させるという発想のもと、利益を上げている部門や将来性のある部門だけを切り離し、別の会社を作って事業を行っていったり、他の会社に承継したりすれば、生き延びていくことが可能となります。
この会社分割は事業再生の場面でもよく使われています。
会社が倒産の危機に瀕しているなかでも、会社のなかには非常に優れた商品や技術・ノウハウなどが蓄積している部門というのは必ずあるものです。
このとき会社分割をすることによって、一部は生き残ることができるのです。
会社分割は、会社自体が債務超過の状態であってもできます。
また、会社分割は事業承継の手段としても有効な方法です。
たとえば、会社の後継者候補として子供が2人いるような場合、会社分割をして、一方は製造専門の会社、一方は営業販売の会社としたうえで、子供をそれぞれの会社の社長とする、といったことが可能となります。
さらに、会社分割はM&Aの手段としても可能です。
ある会社のある事業だけが欲しいといった場合にも、会社分割によってその事業だけを自分の会社に吸収してしまうことができるのです。
会社分割は、株主総会の承認や債権者保護手続きなどを経たうえで、登記をすることにより効力を生ずることになりますが、実務的にはそれほど複雑ではないという点が有効利用されている点だと思います。
しかし、この会社分割について一部で問題点も指摘され始めています。
それは、労働契約の問題です。
会社分割では、事業に関しての権利義務を包括的に承継するとされており、仮に債権者の一人一人の同意がなくても契約などをまとめて新しい会社に引継ぐことができます。
これには労働契約も含まれており、原則的に本人の意思がなくても新会社に引き継がれることになります。
労働者としては会社が変わるため、転籍ということになるわけです。
そして転籍後しばらくしてから、給料の賃下げが行われるというのです。
つまり、会社分割の時点では労働契約も維持されるため、当初は給与体系も変わらなかったはずが、直後には新しい会社の就業規則等をもとに給料の賃下げが行われるのです。
働いている側としては、実際何も変わらないのに、会社の都合で会社分割という組織の再編の結果、労働条件が悪くなるというのは非常に理不尽なことです。
現在、この会社分割に伴う労働契約についての訴訟が増えているようです。
会社分割は、企業の組織再編としては本当に有効な手段なのですが、このような問題が発生しないように、労働者と事前に話し合いをしておくことはとても重要なことだと思います。